鬼系上司は甘えたがり。
 
「そんなわけ……!ただ、これを付けてても全く効果がないというか、牽制にもなっていないというか。でも元々、主任から貰ったものだってことは奥平さんも分かってるから、そこは仕方ない部分もあるのかなとも思うんだよ」

「まあね。そこが薪ちゃんの弱みよね」

「……うん。だから、あんまり強く出られなくてね。もうどうしたらいいのやらって感じで」


終業後の、編集部の最寄りの休憩室。

運よく今回も先客はおらず、それぞれに飲み物を買って丸テーブルについた私たちは、そこまでの会話を終えると盛大に溜め息を吐き出した。


由里子の言うことはよく分かっている。

全てはハッキリ拒絶しきれない私のせいだ。

どれだけ借りがあろうと、心の内を全て晒け出すほどの告白をしてもらおうと、私自身がその気持ちに応えることが出来ないとしっかり自覚しているのだから、奥平さんにはそれを納得してもらえるまで説明するほかない。

……でも、それすら奥平さんの心に火を点けるという逆効果になってしまっているのだけども。


どうやら奥平さんは意外と策士らしい。

主任とは違ったアプローチの仕方--つまりは表立って正面から堂々と迫られると、逆にどうにも逃げ場がなくなっていく気がする。

肉食王子の求愛は、なかなかに凄まじい。
 
< 210 / 257 >

この作品をシェア

pagetop