鬼系上司は甘えたがり。
 
編集部の人たちには、仕事上のことやその他諸々を考慮して、現段階ではまだ秘密にしておこうという話で落ち着いているのだけど、どうも由里子のことに関してだけは違うような……。

けれど、その答えはすぐに分かることとなる。

会社からほどほどに離れているここの和風居酒屋は、寒くなると鍋専門店か!とツッコミたくなるほどに、とにかく鍋メニューが増える。

由里子とそれぞれ、一人前のコラーゲン鍋と豆乳鍋をシェアし合いながらビール片手にハフハフ食べていると、報告を聞き終えた彼女は、口元にニタリと笑みを浮かべ、こう言う。


「あれ、知らなかった? 主任、もうずいぶん前から薪ちゃんのこと好きだったよ」


寝耳に水、とはまさに今のような状況のことを指す言葉なのだと、新年早々25歳になる身で、人生で初めて実体験することになった。

しれっとした口調で爆弾を落とした由里子に返す言葉が見つからず、レンゲに掬った豆乳鍋の豆腐が取り皿の上にボトリと落ちる。

知らなかったもなにも、ずいぶん前っていつから? ていうか由里子は知ってたってこと?

予想外の情報が一気に押し寄せてきて、私の頭の中はもはや豆乳鍋のようにトロトロだ。
 
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