オフィス・ラブ #3
その時、つかつかと歩み寄ってくる足音がして、振り向くと。



「堤、てめえ」



何言わせる、と、足早に近づいてきた新庄さんが、持っていた分厚い紙資料で、堤さんの頭をぶっ叩いた。

それがあまりに手加減なしなので、私は思わず、ひっと身がすくむ。


いてっ、と声を上げた堤さんが、怒りを隠さない様子の新庄さんを振り返って、また大笑いした。



「しがらみなんて、隠したって消えないんだから。いっそオープンにしたほうが、みんなハッピーだろ」

「黙れ」



ただの嫌がらせのくせに。


新庄さんは心底頭に来ている様子でそう言うと、堤さんの脚を容赦なく蹴りあげる。

それをガードしながら、堤さんは、もう涙を浮かべて笑っていた。


私は、ひとり小さくなっていたんだけど。

お前も部下ならこいつをとめろ、とひどいとばっちりを受けて、まだ周辺にいた何人かに、笑われるはめになった。


この導入が終われば。

終わりさえすれば。


新庄さんは、一息つける。


そう信じて過ごした上期が、今月で終わろうとしていた。



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