オフィス・ラブ #3
私も地下鉄で帰ろっと、と言って、絵里さんは私と同じ路線を選んだ。

涼しい車内に、ほっと息をついていると、それ、可愛いね、と絵里さんが言った。



「え?」

「ピアス。いつもと感じ違うから」



さすが、よく見ている。



「新庄さんからいただいたんです。先月、誕生日で」

「へえっ、おめでとう。それ、あいつが選んだの?」



いえ、一緒に、と答えながら、彩と同じ質問だな、と思った。

けど、絵里さん的なポイントは、別のところにあったらしい。



「あいつが、貴金属を贈るなんてね」

「そういうタイプじゃなかったんですか」



タイプっていうか、と絵里さんが両手で吊革につかまって、小さく息をつく。



「形の残るものは贈りたくないとか、豪語してた時期もあったのよ」



えっそれ、地味に最低じゃない?

思ったことが伝わったのか、最低でしょ、と絵里さんが笑った。



「あんな兄だけど、よろしくね」



別れ際にそう言われて。

私は、もしかしたら、けっこう自信を持ってもいいんだろうかと。


また、思った。



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