オフィス・ラブ #3
ピアスを握りしめてにらみつける私をよそに、新庄さんは笑いながら洗車に戻る。


何がそんなに楽しいんだ。

どこでそんなの、覚えたんだ。


反対側を自分で外して、ショートパンツのポケットに入れた。

3つあるうちの半端な穴には、新庄さんからもらったピアスがついている。

こんな男にもらった、大事な大事なピアスが。


むくれて洗車に戻る私を見て、新庄さんがおかしそうに笑った。



「最低」



そう言うと、なおさら楽しそうに笑う。

ほんと、最低。


濡らすからと、洗車中は煙草を吸えずにいる新庄さんは、口さみしいのか、たびたびキスをしてくる。

誰もいないとはいえ、こんな、道の真ん前で。


そのたびに、最低、と文句をたれる私を、くすくすと笑っていた新庄さんが。


最低ついでに、と。

ふいに言った。



「来月から、大阪に行く」



ルーフの奥に届かない私の手から、スポンジを取りあげる。



「出張ですか?」

「いや、出向だ」



代わりにホースを受けとった私は、水の出ているそれを持ったまま、新庄さんを見あげた。

出向、って。



「…どのくらい、ですか」



長い腕でスポンジをすべらせていた新庄さんが、そこでようやく、私を見た。

すまなそうに笑って、答える。





「最短、一年」





その時、初めて。


耳鳴りのように、あたり一帯を震わす蝉の声に、気がついた。



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