オフィス・ラブ #3
聞きたいことはいろいろあるけれど、今夜は、そういう話はしたくなかった。

次、いつ会えるかわからないなら。

明るいことだけ、考えてたい。


デカフェ? とキッチンから声がして、お願いします、と答える。



「酒はよくて、カフェインはダメなのか」

「…関係あります、それって?」

「俺はどっちも、わりと平気」



少なくともお酒は、わりとってレベルじゃないだろ。


私は、夕方以降にカフェインをとると、さすがに寝つきが悪くなる。

新庄さんは、刺激物に強い体質なのか、一日中コーヒーを飲みながら、平気で寝る。

私がこの家に来るようになってから、デカフェの豆を常備しておいてくれるようになったのだ。


豆のいい香りにつられて、キッチンへ足を向けた。



「向こうで買うんですか」

「うん」



カウンターに置かれたコーヒーメーカーを指して尋ねると、予想どおりの答えがあった。

たぶんこの調子で、ほとんど何も持っていっていないに違いない。


コポコポと音を立てる機械を見つめていると、背後でカップを用意していた新庄さんが、言った。



「寂しい?」



思わず、そちらを振り向く。

思ったより近くに彼はいて、見あげる形になった。



「…決まってるでしょう」

「言わないから」



言わなくても、決まってます。

すねた気分でそう言うと、新庄さんが少し微笑んで、カウンターにカップを置く。



「言わなきゃ、わからん」


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