オフィス・ラブ #3

行ってしまった。



新幹線の駅まで見送った私は、その足で、もう一度新庄さんのマンションに向かっていた。

シーツなどを、洗っておこうと思ったからだ。


もらった鍵を、初めて使って、部屋に上がった瞬間、後悔した。

もう少し、時がたってから来るんだった。


煙草とコーヒーと、ふたりの匂いがまだ感じられる、南向きの部屋は。

温かい色合いが、かえって寒々しくて。

痛くて痛くて、耐えがたい。





人前で、絶対にそういうことをしない新庄さんが、駅のホームで、肩を抱いて、キスをくれた。

乗りこむ前の、一瞬の。

だけど熱くて、彼らしい、愛情のたっぷりこもったキス。


休日というのに、着いたら一度出社すると言う新庄さんは、スーツだった。


私はなんとか、笑って見送れたと思う。


だけど、手を振ることはできなかった。

そんなことを、新庄さんに対してしたことがないからだ。


頭を下げるのもおかしい気がして、突っ立ったまま、見送った。

少しの間、デッキにいた新庄さんは、一度微笑むと、見えなくなる直前に、席へと姿を消した。





シーツと枕カバーをはがして、洗濯機に放りこむ。

今朝使ったタオル類も、一緒に入れる。


洗い終わるのを待つ間、駐車場へ行ってみた。

ぽつんとたたずむ黒い車は、主がいなくなったことを承知しているかのように、そのオーラを消していて。


置いてかれちゃったね。

でもお前は、そのうち呼んでもらえるかもしれない。

だけどそれはつまり、あの人が、長い間、帰ってこないってこと。



もう、新庄さんも見ていないし、いいやと思って。



涙が出るに任せた。



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