浮気者上司!?に溺愛されてます
胸の前で積み上げるように抱えていたファイルを左腕の方に傾けて右手をなんとか自由にすると、私は小会議室のドアをノックした。


「どーぞー」


中からすぐに、緩い返事が聞こえてくる。
いつものシレッとした声じゃなく、どこか淀んだ色がこもっていたから、きっと書類に埋もれてうんざりしていたんだろう。


そんな恭介を想像して思わずクスッと笑ってから、失礼します、と告げて中に入った。


「あれ。そんな量になった?」


自分で指示してきたくせに、私が抱えるファイルの高さに驚いたのか、恭介は立ち上がると私の方に歩み寄ってきた。


「ごめん。悪かったな」


そう言って、上から半分くらい持ってくれると、先にデスクにドサッと置いてから残りの分もその隣に山を作った。


視界を微妙に遮っていたファイルが消えて、ようやく小会議室の室内の様子が目に入った。
そして、思わず目を瞬かせてしまう。
確かに……。これだけの資料と朝から一人で格闘していたら、いい加減うんざりすることだろう。
そこにちょっと同情はしても、私はわずかに頭を下げた。


「じゃ、私はこれで」


頼まれたことは済ませた。
それならここに長居は無用。
恭介と目を合わせることもなく、そのまま回れ右してドアに向かおうとすると、


「……ほんと、つれないなあ」


そんな溜め息交じりの声が聞こえてきた。
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