一夜くんとのアヤマチ。
「じゃあ、くれぐれも列を崩さないで歩いて下さい」

バスを降りた高校生が列をなして歩く。修学旅行でよくある光景は、烏間高校でも例外ではなかった。

「…ってか、俺あんまり興味ないんだけどな、ここ…」
「やめてよ一夜、そんなこと言ったら日向先生怒るじゃん…先生なんだよ?」
「そんなことで怒ったりしないだろ、日向先生は」

列の最後尾の私。そのすぐ前で、一夜くんと雪月ちゃんが喋っていた。

「大丈夫だって。私も…正直言って、あんまり興味ないんだよね…。あ、このこと、他の先生には内緒だよ?」

私達が今から行こうとしているのは、第二次世界大戦での沖縄戦の資料が展示されている博物館。しおりにも当然書いていたし、そうじゃなくても何となく行く雰囲気はあったのだが、私は戦争について、そこまで興味があるというわけでもなかった。

「な? 怒らないって言っただろ?」
「一夜くん、もしかして私より私のこと知ってるかもね」
「それはないですよ。一夜、人を見る目皆無ですから」
「そこまで言うか?」

これもきっと、二人が幼なじみだから成り立つ会話なんだろう。少なくとも、私にはとてもこんな会話を繰り広げられる気がしない。

…ダメかもな、私。

私なんかより明らかに一夜くんとの距離が近い雪月ちゃんを見ながら、私は、きっと一夜くんと付き合うのは雪月ちゃんだと思っていた。

現に、一夜くんは雪月ちゃんと話している時が一番楽しそうだった。私と一緒にいる時には見せない笑顔を、一夜くんは見せている気がした。

「…ですよね、日向先生?」
「ふぇ?」

急に話を振られたために、間抜けな声が出てしまった。

「何か考えごとでもしてたんですか?」
「あ、うん、まぁ、うん…」

雪月ちゃんのその質問に、私は素直に答えられる気がしなかった。
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