一夜くんとのアヤマチ。
「…私が言いたいのは、一つだけでございます」

しばらくの間の後に、静かにこう言った。

「娘を返してくれ、とは申しません。…責任を、取って頂きたい」

私が経験したことのあるはずのない、我が子を失うという悲しみ。深いという形容詞だけでは言い表せないようなその思いの重みが、私にのしかかった。

「ありがとうございました。…では続いて、事実確認へと移行したいと思います」

理事長は表情一つ変えずに、手元の資料を一枚めくった。そして理事長が鵜児くんの方を見ると、鵜児くんは立ち上がって資料を読み上げた。

「『体内の傷口から血管に入り込み死に至らせるウイルス『ネレウイルス』がデザートの杏仁豆腐の上に付着していたことに気づかずに生徒に食べさせてしまい、三年四組の鶴花雪月さんがネレウイルスに感染して亡くなった』…これに間違いは無いですか?」

私は黙って、首を縦に振るしかなかった。

「本校としては」

理事長の目線が私に向けられる。

「生徒への衛生管理をする立場であるはずのあなたがそれを怠ったせいで、死に至らしめた。そのため責任を取って、本校を去って頂きたいと考えています」

そんなことだろう、とは思っていた。

生徒一人の命を奪ってしまった。それは紛れもない事実だ。そんな人間を必要とするはずはない。置いてもらえるほど、甘くはない。

「どうお考えですか?」

敬語なのが、なおさら威圧感を与えていた。

隣を見ると、一夜くんは爪が食い込みそうなほどに拳を握り、何かに耐えている様子だった。
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