一夜くんとのアヤマチ。
「…あの時はカッとなって出て行ったけど、しばらくして日向が正しいってことに気づいて…。でも戻るの気まずいから、俺に出来ることを考えて…気づいたら、ここに来てた。それで、その時に思った。俺一人でも、説得しようって」

思えば、一夜くんの目に後悔の涙を見い出したのはこの時が初めてかもしれない。

「だけど…そんなに甘くなかった。俺が全部話したら、スタンガンで首元狙われて…。で、気づいたらこれだ。…まあ当然だよな。教師と生徒。本来なら恋愛関係になんて発展することがないのに、あろうことか子供までいるなんて…」
「全くだ。…そうだ…」

銃を握る右手の血管が、怒りを如実に表していた。

「貴様! 自分の立場をわきまえろ!」

もう、いつでも引き金は引ける状態にあった。

「何で…? お父さん、何で…?」

さっき一夜くんが言った通り、理由は明確だった。立場をわきまえずに出過ぎたことをしてしまった、私達の責任だ。だけどそれでも、お父さんの真意は分からなかった。

「…日向を一人で育てるようになってから、いくらか過保護になりすぎたのは分かっていた。境遇は普通じゃないけど、日向には普通に育って欲しい。そう思っていたから、今回のことは許せなかった」

お父さんの主張は、あまり多くの言葉を含んでいるわけではなかった。でもそれは、お父さんの気持ちも強いものであるということを、確かに物語っていた。

「…日向にも責任はあるが、その責任は元はといえばこちら側にある。…だがこいつは!」

銃口は、一夜くんの頭部をはっきりと捉えていた。

「こいつは、日向を誤った道へと進ませた! 日向に常識を無視した恋心を芽生えさせ、結果的に人生を狂わせた!」

人差し指に力がこもる。

「償え!」

銃声が、耳と部屋とこの建物と、そして辺り一帯の音を止めた。
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