First Kiss〜先生と私の24ヵ月〜

S2 愛と現実の狭間で

私が家を出て1ヶ月が過ぎた。


保証人不要のアパートを借りて住み始めた。


私のアパートの住所は紅にも教えていない。


携帯も持っていない。


私はなにもかもを置き去りにしてきたのだ。


思い出も愛も、すべてを。

でも後悔はしていなかった。

ただ、春雪のことだけは片時も忘れたことはなかった。


目の奥に焼き付けた、ハルの笑顔、泣き顔、怒り顔‥。


まるでフォトアルバムに飾るように鮮明にうつるハルの色々な表情。


バイト三昧で疲れて帰ってきても、ハルの笑顔が私を癒やしてくれるのだ。


愛してるよ、ハル。


私は寝る前にいつもそうつぶやいて眠りにつく。


私のことを愛してくれたこの世界でたった一人のヒト。


ハルに愛された事実だけで私は生きていけるような気がしていた。


ハルは今何をしているだろう?


私の不在をどう思い感じているのか?


気にはなるけれど連絡を入れる勇気はなく、その日その日をやり過ごしていた。




私は日々の忙しさでめまぐるしく、孤独さえ感じなかった。



あれほど家族といるときには孤独で寂しくて仕方なかったのに本当の独りは全然寂しくないのが皮肉だった。
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