ベイビー クライ

クラスメートの課題を数学準備室に持って行くのは、日直のお仕事で。誰も疑うことのない、先例だったはずなのに。

5時間目の授業の後、先生の一言によって、それは簡単に覆された。


「出席番号に今日の日付…、14日だから4が付く奴誰か、放課後に持ってこい」


4番、14番、24番、34番…

…あたし、14番だ。


放課後、みんな早く帰りたい理由がそれぞれに有る訳で。
だけどあたしには、そういう華やかな理由がないから、「――失礼します」14番の使命を全うすることになった。


「お。来たか」


準備室では、先生が机の上に二つのティーカップを並べている。
あたしは入室すると、まず速まる鼓動をなんとかおさめて、それからクラスの人数分の課題を机の上に置いた。すると


「飲め。」


ティーカップを顎で差して、先生は自分のカップを口元に当てた。

「な、なんですか?」


いくら心臓に良い子にしろと言い聞かせても、二人きりになると、ヤバい。
こないだの、委員会の後の不意打ちキスが、まだ心に効いてる。



「なにって…。今日何の日かお前、知らねぇの?」


差し出されたカップの中には、褐色の液体の上に、真っ白なマシュマロが3つ、浮かんでいた。


「い、いただきます…」


今日は3月14日。
世間で言うところの、ホワイトデー。
ごくりと飲み込んだあたしを見て、先生は「美味いか?」と穏やかに笑う。

頷いてはみたけれど、正直味なんてよくわからない。真っ直ぐに見つめられるから、感覚が麻痺してる。


「…っていうか、14番のあたしが来なかったら、どうするつもりだったんですか」


率直な疑問。
こんなに周到に用意しておいて、例えば4番の男子生徒が持ってきたらどうしたの?


そんなあたしの質問に、「それならこうして、」カップを置いた先生は、にやりと笑って両手を広げた。


「俺が、行くまでだ。」


そしてあたしの手の中のカップから、液体が溢れないように、体をそおっと抱き寄せる。


「お前が来たこと。俺はまたとないチャンスだと思ってるけど?」


ずるいです、先生。
絶対にあたしが来るだろうって、見越してたんでしょ?



「…チャンスって、なんの、ですか」


手のひらで、カップの中身がちゃぷんと音をもらす。

先生は背中に回した片手を外すと、あたしの手からカップを奪ってテーブルに置いた。
その光景を目で追っていたあたしの視界を遮るように、首を傾げて顔を覗き込む。


「教えてほしい?」


だけど、先生――


「や、遠慮しときます…」
「素直じゃねぇな。それならやっぱり俺の方から行くしかねぇか」


そんなに優しい眼差しを向けられたら、カップじゃなくてあたしの気持ちの方が、溢れてしまいそうです。



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