元通りになんてできない

もう、ここのご主人、声も素敵なのよね〜。

「…休日で精算が出来ないので、御足労ですが、後日また精算にいらしてもらえますか?」

「解りました」

「お世話になりました。有難うございました」

「それではお大事に」

私と、そして部長、それぞれに会釈をして退室して行った。

「すまん。話の流れで、誤解を解く間がなかった」

「…構いませんよ。問題になる事でも無いですし。
精算に来た時に会うことがあれば言っておきます。
敢えて言わなくても…。
勝手に誤解した訳ですから」

「んん〜、まあな。それじゃあ帰るとするか」

「はい」

「荷物は何も無いな」

「はい」

「じゃあ、行こう。ゆっくりな、ゆっくり歩こう。慌てなくていいから」

クスクス。

「大丈夫ですよ、ガンガン走ったりしませんから」

言い終える頃、部長がさりげなく手を繋いだ。
あ…。

「何となく、な。支える手段だ。咄嗟に間に合うようにだ」

部長は頬をポリポリと掻いた。
クス。気持ちは解った。
肩を抱いたり、労りながら歩きたい。そんな気持ちが、手を繋ぐになったんだ。きっと。

…可愛らしい人だ。これがギャップ萌えというモノなのかな…。
部長という立場上、普段は表情も変えないのが常。
手を繋ごうとする行為も、抵抗があり、大人になるほど急には難しくなる。

言っても仕方のない事なのだが、これは年齢からくる余裕というものなのだ…。

部長には人生経験からくる、安心感と温かさがある…。

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