元通りになんてできない
本気の誘惑


「鷹山」

「はい」

今夜も部長は来ていた。

知ってか知らずか…、勇士は今日は靖子さんちにお泊りしている。

部長の手土産。私の好きなタルト、今日はミックスベリーのタルト。…美味しい。

遠慮なく頂きながらコーヒーを飲んでいた。

タイミングよく私の食後のデザートになっていた。

会社帰り、その足でケーキ屋さんに寄り、来たようだ。

ケーキ屋さんと部長。
気恥ずかしいだろうに、私の為にいつもこうしてケーキを買って来てくれる。

御飯は?と尋ねてみたら、気にしないでくれと言うので、ならと、軽くあり合わせを出して食べて貰っている。

「いつも、旨いな」

「有難うございます。
旨いかどうかは別ですが、…いい歳の子持ちの女が、御飯も作れないなんてなったらダメですから…、それなりにです。
やってれば自然にできますよ?」

「そんなもんかも知れないが、そうならない場合もある…」

「部長?」

「…」

じっと見詰められた。

あ…、そうか。

「高野さん…」

「…」

駄目か…。

「…紳一郎さん、どうかされましたか?」

「んんんっ。どうもしない…。
時に最近。その…、幸元は鷹山に…、好きだとか…、ちゃんと言っているのか?」

「え?ぶ、部長!…い、いきなり…、どうしたんですか?」

「ん?…。幸元は、鷹山を、母親に専念させてるんじゃないかと思ってな…」

…確かに。言われてないかも‥。
でも、それは仕方のない事だと思う。世間一般的にそんな感じになるモノだとよく聞く。
…比べるつもりは無い。比べるつもりは無いけど…。

でも、改めて考えてみると、信君は知里が生まれても、変わらず好きだと言ってくれたし、抱きしめてもくれた。

キスだって、…夜だって…。

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