白雪と福嶋のきょり
「そっか…。」
「がー!遅刻するわあー。」
彼女が至極か弱く震えた声でそう呟いた時、気怠さと焦りが渾然した男子の声と足音がクリアに響き渡った。
その足音の後に喧騒と足音が滔々と溢れはじめたのを耳で捉える。
一つのクラスのホームルームが終わった様だった。
「!あっあのサボらせてごめんね付き合ってくれてありがと…じゃあっ。」
それに過剰な反応を見せた彼女は、まるで何かの糸が切れたかの様に異常な饒舌さで全てを言い切り。
此方の回答を待つ事もなく、まだ誰の足音もしない北棟へと伸びる渡り廊下を俯きながら走っていった。
その背中は鋭さを強めはじめた橙の光の帯に覆い隠れて、よく見えなかった。