白雪と福嶋のきょり
「…」

喧騒の中に溜息を一つ隠した。


それを除いても、夏はあまり好きになれない。

春の緊張が消え去り暑さを理由に様々な箍を外す。

けれどまだ秋は程遠く、完全には実りきっていない果実同士で寄せ集まって恐る恐る相手を探る。

そんな些細な危険と過大な臆病が渾然する夏は、今年も好きになれそうにない。

無論、それらの夏が嫌悪感に拍車をかけているのは言うまでもない。

それでも季節は俺一人の嫌悪など知らぬ顔をして、いつも柔らかな春の次に眩しすぎる夏を連れてくる。

周りは既に殆どが薄手の露草色に変わっていて、同じ鉄色を纏う奴は殆どいない。

休みに降り続けた雨が止み、別段に強くなった陽射しが要因だろうか。

透ける様に軽い色を纏っているのに、全員不思議な程に至極暑苦しそうだ。

遠慮がちに緩むネクタイ、裸になったうなじ、忙しなく動く手の団扇。

そして、早く夏服にしろよ見てるこっちが暑苦しい。と毎年の決まり文句を放つ友人達に俺の勝手だろと返していると。


「そうよいいじゃない。ねえ?福嶋、」


繰り返されていたそれらがトン、と静止したのは、後方から吹いた風のお陰だ。
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