白雪と福嶋のきょり
１５：３９
「あ、逆だ」
滑らかにスライドする窓と鍵の静かな音が妙に響いた。
急に喧騒が消えて一人となった教室はとても静かで少し物寂しくて。
既に息を潜めた蛍光の明かりとは違う、鋭く世界を染める橙の光に透ける様に映った顔はどこか不安そうに見えた。
「黒板よし。戸締まりよし」
一人が怖いとか静かなのが嫌いという訳ではないけれど、ここまで急速に人影がいなくなってしまうのは好きじゃない。
「(昔はずっと学校にいたのにね)」
薄玉子色の頼りなく薄いカーテンを閉める音。赤銅色のローファが鳴らす音。小さく出した声の音。
教室に、一人分の音が響く。
そんな教室で、卒業してもう五年になる小学校を思い返せば。
帰りのあいさつが終わっても雑談が響く教室や、ブランコを取り合って暗くなるまで生徒が遊ぶ校舎がすぐに浮かんだ。
みんなが自然と集まる場所だったし安心出来る場所。
それが中学に上がれば部活や塾が優先となって、高校になるとバイトやデートが何よりも最優先の位置に鎮座する。
自由が広がれば広がる程、必然的に行動範囲や新たな事への挑戦や欲望も膨れ上がっていく。
それが当然の変化で必要な事と分かってはいるけれど、ほんの少し昔に戻るのもそれはそれで楽しいだろうなとも思う。
