俺様男子の克服方法(短)


「おい!」

走って追いかけてくることなんてない。
そんなことしたら店内でだって走って逃げてやる。
馬鹿だ。
あいつといると馬鹿になる。
嫌いなのに。
入口を出て、広い庭を走って横切る。
嫌いなのに。
目を強く擦った。
手の甲にアイシャドウとアイラインが移る。
嫌いなのに。
交差点を右に曲がると足が止まる。

「わかってるのに」

ただの自分勝手じゃない。
優しいし、私をよく見てくれている。
イタリア好きの私のために計画してくれたことも感じていた。
遊びじゃないって信じたい。
こんな風に泣くくらいなら聞けばよかった。
言っとけばよかった。
強く惹かれているって……。

「礼子!」

反射的に駆けだす。
初めて呼ばれた名前にほだされちゃダメだ。

「礼子! 待てよ! なんで逃げんだよ!」
「わかんないの?」

今更な質問に怒りよりも焦りで振り返ってしまう。
夜でも街灯があれば私の崩れたメイクに気づくはず。

「わかんないなら二度と会わない」

ずるいな、私は。
はったりをかます時に彼の目を見てしまうなんて。

「俺がわかんねぇと思うのかよ」

腕を伸ばせば届く距離をするりと詰めて、前触れもなくキスをした。

「女のために2回も走ったことねぇよ」

目を閉じられなかった私のまぶたを掌で隠して、唇に喰いついてきた。




  女を口説き落とす天才、落とされたのはどっち?
  (そりゃあ……)


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