みんな、ときどきひとり

反対側のホームに電車が到着した。

鞄の中にある携帯を握り締める。すぐにわたしのいるホームにも電車が到着し、開いたドアから亮太が先に乗り込んだ。

「亮太、ごめん。忘れ物した」

心にもう迷いはないと言ったら嘘になる。こう言った瞬間にも亮太のことを気にかけている。

「まじ?ドジだな、お前。んじゃあ、明日な」

そんなこと思われてるなんて知らない、柴犬のような笑顔に手を振った。

わたしがずっと、大好きだった笑顔。

「うん。ばいばい」

変わらなきゃいけない。

ドアが閉まる前にわたしは駆け出していた。

反対のホームへと続く階段の手すりを掴みながら、階段を急いで上る。

携帯を手にして発信キーを押した。

「助けて下さい」とだけ言って、電話を切った。





階段を下りてホームに辿りつく。

電車が行ったばかりでそこには乗り遅れたような人が、まばらにしかいなかった。

「なんですか、あの電話」と後ろから声がした。水城くんの。

「何かあったら、電話よこせって言ったじゃん」

「そうですけど。今、そんな電話されると冗談にもならないですよ」

「冗談じゃないよーだ」とだけ言って、ホームのベンチに腰かける。彼も黙って隣に座った。

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