みんな、ときどきひとり
「それなのに、人の顔色伺ってご機嫌とってきたりしてね」
母は火がついたかのように早口で話しだす。
「それに、大が産まれてから、大にわたしがかまっていると、不満そうな顔ばっかりしてたわね。
お姉ちゃんなのに、そんなことも我慢出来なかったのね。
それに、比べて大は素直で……」
「お母さん!」
話を遮るように怒鳴った。
「何よ。お母さんを怒鳴りつけるなんて。恐くないわよ。別に」
母はわたしの顔をまた睨むように見る。
その目は娘としてわたしを見つめているのか、よくわからなかった。
「わたしの話をしてよ……わたしの」
言ったあと、うなだれた。
そうだ。いつだって、わたしの話の結末には大の話に切り替わるんだ。
どれだけ頑張ってみても、大を誉める話に切り替わるんだ。
わたしにかまってほしくてついた嘘も。
甘えたくて仕方なかった不満そうなわたしも。
どれだけいい子の仮面を被ってみても母には伝わっていた。
なのに、どうしていつも伝わってほしいことは伝わらないんだろう。
その行動の裏側にあるわたしの気持ちを。
考えてはくれないのだろう。
「ねえ。お母さんはなんでわたしのお父さんと結婚しなかったの?」
わたしが、ずっと知りたかったこと。
父がなぜ、わたしにはいなかったのか。口に出せば、なんてシンプルな疑問なのかと思う。
睨みつけた母は目を静かに逸らす。
「わたしのことなんで産んだの?」
母は何も答えず、一点を見つめたままだった。