みんな、ときどきひとり





わたしには、産まれたときから〝父親〟というものがいなかった。

その代わり、祖母が居て、母と3人で母の実家で暮らしていた。

保育園や、公園、スーパーに行くと、みんなには、父がいるように見える。

大人の男の人といる子はパパと言って笑ってる。

わたしにはなんでいないんだろう。

母は、わたしによくこう言った。

「お願いだから、お母さんを困らせないで」

「いい子にしててね」

「次、こんなことしたら、捨てちゃうからね」

そうして、母は仕事へと向かう。

父のことを訊いたら母が困るとわたしは幼いながらもわかっていたんだと思う。

だから、父のことなんか訊けなかった。

母も、わたしに何も言わなかった。

祖母はあんなろくでもない男とぼやいていたけど、わたしには良くわからなかった。

4歳くらいだっただろうか。

母はわたしに「優菜、パパできたら嬉しいわよね」と訊いてきた。

パパって、急に出来るものなの?と母を見つめる。

「嬉しいわよね?」

ああ。お母さんが嫌な顔をした。そう思うと、頷いていた。

「優菜、新しいパパよ」と、母より少し背の高い男の人を連れてきて、そう言った。

新しいパパも古いパパもわたしにはいない。

その新しいパパを見つめる母の顔は、わたしに見せたことのない顔だった。

大きくなってから思うと、あれは母親より女性の顔をしていたんだと思う。
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