それでも君が必要だ
……ああ、嫌だな。
今度は何でしょうか?
川内さんはスイ電機の先輩。常に女子社員の中心にいる。
残念ながら川内さんは優しく後輩指導をする先輩ではなくむしろ意地悪で、日課のように嫌がらせをしてくる。
「ねえ、この伝票の科目さぁ、ぜーんぶ違うんだけど、どういうこと?」
「えっ……?」
全部なんて、そんなはずないのに。
驚いて見上げると、川内さんは顔を近づけ、他の誰にも聞こえないよう私の耳元で囁いた。
「『えっ?』とか言ってんじゃねーよ。テメーのミスだろ?かわい子ぶんな」
川内さんはこういう時、座っている私の後ろからシャープペンの芯で肩をチクチクとつつきながら話す。痛いし、白いブラウスの襟に黒い線が付くからやめてほしいけれど、……言えない。
「これだから、会社に遊びに来てる人は困るのよねぇ」
今度はみんなに聞こえるような大きな声を出し、私の頬をわざと掠るように伝票をバサッと机に投げつけた。
みんなが「またアイツか」とばかりに私をチラと見る。
わかっているけれど、机に散らばった伝票を集めて手に取り、もう一度見直した。
……やっぱり、間違っていない。
何度見ても、どの伝票も間違っていない。
でもご丁寧に赤ペンで伝票の科目にバツが書き込まれてしまっている。
絶対にわざとですよね?
どうしてこんなことをするんだろう。
暇なんだろうか。
もう一度印字し直さないといけない。
紙がもったいない……、なんて考えてはいけないんだろうか。
「あのっ……、でもこの科目、間違っていないみたいなんですけど……」
「これは『消耗品費』じゃないの!何度言えばわかるの?」
「え?でもこの間『最初は消耗品費であげて、決算の時に棚卸分を処理する』って……」
大崎課長からそう言われたから間違いないと思うけれど。