それでも君が必要だ
キャラメルの味

乗ったことのない路線。
知らない景色が窓の外を流れて行く。

どこに連れて行かれるのかな?
思わずキョロキョロする。
そんな私の不安を読み取ったのか、智史さんは微笑んだ。

「すぐに着くよ。大丈夫」

「……」

『うん』と言ってよいものか迷って、黙ってうなずいた。

でも、智史さんの言葉通り、本当にすぐに電車から降りることになった。

降りたことのない駅。
手を引かれながら周りを見渡して、またキョロキョロする。

改札に切符を通すと智史さんは笑った。

「切符なんて久しぶり」

ああ、最近はどこに行くにもICカードですよね?

「そうで……」

そうですよね、と言いそうになって言葉に詰まる。

「なあに?」

智史さん、首を傾げてわざとそんな顔をして、楽しんでいるようにしか見えないのですが。

だからがんばってもう一度言い直した。

「そう、だよ……ね」

「そうそう、いいね。その調子」

智史さんは満足そうに私の手を取り、商店街の中を歩き始めた。

かなり古い雰囲気の商店街。

店の表に土だけの植木鉢が置かれた小料理屋。変色した値札のサンダルが並ぶ靴屋。無造作に陶器の茶碗が重ねられた雑貨屋。

初めて見る景色に目を奪われる。

「ここからそんなに遠くないから」

智史さんがそう言った時、大きな声が聞こえた。

「サトシちゃん!彼女連れてんのかい!?」

話しかけてきたのは、三角巾を被った和菓子屋のおばさんだった。

暖簾の向こうのガラスケースから身を乗り出して、目を丸くして見ている。

サトシちゃん?
もしかして子どもの頃からのお知り合い!?

大変!!
私のことなんて知られたらいけないのに!

「いやいや、彼女じゃないよ」

智史さんの口から当たり前のように滑り出た言葉にハッとして、その通りだとわかっているのにチリッと傷ついた。
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