焦れ甘な恋が始まりました
 


「馬鹿だと思います……っ、こんなっ」



ああ、私って、本当に馬鹿だ。

心の中でそんな言葉を反復すれば、思わず自嘲の笑みが零れそうになる。


それでも……私は。


身体を重ねることに、良い年をした大人がどうのなんて、そんなこと関係ない。


当たり前だとか普通だとか、そんなの所詮、誘惑に負けた自分を正当化するための言い訳に過ぎなくて……


社長と身体だけ繋がっても、そこに意味なんてないのに。


綺麗事だと罵られてもいい。

勿体ぶるなと嘲笑われてもいい。

例え、馬鹿だと思われても私は――――



「ごめん、なさい……やっぱり私、できません……」



できるなら、好きな人とは同じ気持ちで抱き合いたい。

身体だけじゃなく、心も繋がっていたい。


それは、どんなに年を重ねても。どんなに大人になっても変わらない――――



「…………送ってく」



女の本能なのだと、今更になって気が付いた。


 
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