兄さん、壊して
act1.依存傾向
私、佐々木雪には私と双子の兄がいる。


声を大にして自慢したい程、優れた兄だ。


頭が良くて、優しくて、細かなことにも気を使えて、動物にも好かれて、皆をまとめる力もある。

一卵性だから似る筈なのに、私とは正反対だ。


私の一日は、そんな兄さんの笑顔から始まる。



ーーピピピピピピピ。

目覚ましの電子音が脳を揺らす。

「……くあ」

耐えかねて目を開けると、笑顔の兄さんが飛び込んできた。


「おはよう、雪」

兄さんは、私のクセのついた前髪をゆっくりととかしながら微笑んだ。

朝から兄さんのとろけそうな笑顔を見れる私は幸福者だ、と常々想う。


「おはようございます、兄さん」


きゅうっと兄さんの胸に頭を埋めた。

耳元で聞こえてくる穏やかな兄さんの心臓の音が心地よい。

ああ、これがないと一日が始まった気がしない。


「寝てて良いよ。今日の晩御飯は僕が作るから」


兄さんはベッドから降りると私の頬にキスをした。

「はい、ありがとうございます」

「良い子にしてるんだよ」


くしゃくしゃって頭を撫でると兄さんは、ゆるーく口角を上げた。

アレがなくなってから兄さんは笑顔が増えた気がする。

良かった、アレを捨てておいて。


兄さんの笑顔が私の生きる糧になるんだもの。


良い子にしてて、という掟を破って、私は布団を抜け出した。

少しでも兄さんと離れると、死んでしまいそうな気持ちになるのだから。


物音を立てないようにして、階段を降りる。

うるさくしたら怒られちゃうから……って思ったけど、怒るあの人達はいないんだった。


リビングの陰から覗くと、兄さんがフライパンを回している姿が見えた。

兄さんは何を持ってもさまになる。


兄さんが持つもの全てが、兄さんのために存在しているって……そんな感じ。


「良い子ちゃん。陰で見てないで出ておいで」

「気付いてたんですかー?」


兄さんは凄いんだ。

私がどんなに気配を消してても分かってしまう。

エスパーなのかもしれない……。


「そりゃ気付くよ。雪は分かりやすいからね」

「兄さんが凄いんですっ」

兄さんの背中に抱きついて、すりすりと頬を寄せた。


「こらこら、火傷するかもしれないよ」

「その火傷を見るたびに兄さんが思い出されるのなら本望です」


瞬間、兄さんの動きが止まった。
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