オフィスにラブは落ちてねぇ!!
一方的に嫌っている相手から、一方的に好きだと言われているこの状況が、どうしても腑に落ちない。

どう考えたって、好かれる要素なんてひとつもない。

(普通、オマエみたいなタイプは嫌いだってハッキリ言われたら、あきらめるよね?)

そう考えてから、またマスターの言葉をふと思い出す。


“元々は大人しくて真面目で優しい男だから、仕事は仕事で割りきって気持ち切り替えないとしんどいんじゃないかな。”


確かに仕事中の緒川支部長と、夕べの緒川支部長は別人みたいだった。

(仕事してない時の支部長がホントの支部長…?)

愛美は首をかしげ、腕組みをして考える。

そもそも、どうして緒川支部長が嫌いだと思ったのか。

この支部に配属されて初めて会った時から、緒川支部長が嫌いだった。

(俺は若くても仕事できますみたいな自信満々な顔して、偉そうで?デカイ声で人を呼び捨てにして?ちょっと見てくれがいいからってオバサマたちにチヤホヤされて?それから?)

緒川支部長が嫌いな理由をいろいろと挙げ連ねてみるものの、冷静に考えてみれば、確かに仕事が出来るから異例の若さで出世した訳だし、他の支部の営業職からのし上がったやり手のベテランオバサマ支部長や、支社から配属された管理職のオジサン支部長と比べても、その仕事ぶりは勝るとも劣らない。

実際、支部のトップに立つ人なのだから偉いのだし、そんな人が自信なさげだと、部下は不安になって支部全体の士気に関わるだろう。

歳上の職員の事は“〇〇さん”と呼んでいるし、会社の直属の後輩の自分が呼び捨てにされるのも不思議ではない。

見てくれの良さは本人の生まれ持った物だろうし、チヤホヤしているのはオバサマたちであって、別に支部長自ら甘えている訳でも、それを仕事に利用している訳でもない。

(じゃあ何…?私が嫌いなのは、あのデカイ声か?それとも生理的にあの見てくれが無理なのか?)


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