恋 文 日 和


無口になった体育館裏は
ここだけがハサミで切り取られたように、怖い程物静かだった。

おもむろに神楽くんが立ち上がる。


ただでさえ、背がある神楽くんが立つと
彼の影はすっぽりとあたしを日差しから隠してくれる。

そのおかげで
少しだけ涼しくなった気がした。



そして、一歩前に出て
あたしに埃が当たらないように、ズボンを叩いた神楽くんは

「菊井に、お願いしてもいい?」

そう一言尋ねる。



一瞬戸惑ったが、すぐにその言葉の意図を理解したあたし。


「桜井くんの事?」

「…俺じゃ、あんま役に立てないと思うし。」

「そんな、」

そんな事ないよ。


神楽くんの持つ言葉の力を、あたしは知ってる。

何度も、助けられて来たから。
さっきだって、あたしが必要としてた言葉くれたもん。


だけど、口には出来なかった。

それよりも恥ずかしさが勝ってしまって、言えなかった。



言葉に詰まったあたしに

「行こう。もう授業始まる。」

歩き出した神楽くん。


あたしは黙ってその後ろ姿に従った。



夏風があたしの背中を押す。
新学期の始まりは、悩みだらけで包まれていた。





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