恋 文 日 和


笑い合って、神楽くんはその流れで桜井くんと話を始める。


あたしは彼の横顔から視線を逸らし
気付かれない程の小さな溜め息を吐いた。




…結局、チョコレートは渡せなかった。
ううん、違う。

渡そうと思えば渡せたのに
あたしはそうしなかったんだ。



耳の奥、あの声が響く。


『菊井さんは、俺が引き止めておくから。』


咄嗟に耳を両手で塞ぎ
あたしはぎゅっと目を閉じた。




もう、何を信じればいいのか
わからない。

見るモノ全て、偽りなんじゃないか。


そう思ってしまう自分が居て。


そんな事ない。
そんなはずない、と言い聞かせる一方で

疑ってしまう、もう一人のあたしが言うの。




“誰も信じるな。”

“恋なんて、傷つくだけだ。”




…やめて。

何も、聞きたくない。
何も、見たくない。


これ以上、あたしに何を求めてるの?


もう傷つくのはうんざりなの。
もう、限界なの。





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