さいごのきもち
さいごのきもち

ほんとうに ほんとうに すきだったひとのこと
忘れたくないから 書き留めておくの


最初に出逢った時のこと 君は慌てていた
風に連れ去られた麦わら帽子を追いかけていた

受け止めたわたしに微笑みかけた 幼い夏の色
記憶の中の青空が問いかける

ほんとうに ほんとうに ただ楽しかったんだ
忘れたくないから 書き留めておくの
真っ白なスクラップ・ブックに 在りし日のあの空と
少し頭を下げた向日葵の下で 何も知らず笑う君を


北風の舞う冬のこと 君は笑っていた
もうすぐ訪れる別れも知らずわたしに語る

君の紡ぐ夢物語を聴く 明るい雪の白
記憶の中の灰色が塗りつぶす

ほんとうに ほんとうに 穏やかな時だった
忘れたくないから 書き留めておくの
真っ黒な冬の空に 静かに佇むまるい月と
白い息が君を優しく包んだ コントラストを見守って


もしも知っていたら この気持ちに名前を付けたのかしら


ほんとうに ほんとうに すきだったひとのこと
忘れたくないから 書き留めておくの
動かない唇にただ 消えてゆくこの想い
枕もとの水差しの氷が からりと音を立てる


どうかあなただけは わたしの往く先を知らないでいて

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