【短編】金魚すくい
金魚すくい
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ピシャン、と足元に水がかかった。

「やぁやぁお嬢ちゃん、大丈夫かぁ?悪いなぁ!」

出所はどこかと見回すと、陽気そうなおじさんがこちらを向いて笑っていた。

「あ、いえ…」

浴衣の裾が濡れているが別段気にすることでもない。

「悪いんやけど、その金魚こっちへよこしてくれへんか?」

「え、金魚…」

よくよく地面を見ると、紅い金魚がパクパクと喘いでいる。
「商売道具に逃げられるとかほんま困るわぁ」

道具。

その言葉に頭の芯が冷えた。

祭なんかでしか売れへんからなぁと笑う人を呆然と見つめる。

「そ、そうですね」

ひきつった笑顔で答えてしゃがもうとすると、視界にそれを邪魔するように腕が入って来た。

「こらこら、貴女の浴衣が汚れてしまうよ」

濡れたばかりなら尚更だ、と言う穏やかな声の主を眺める。
白い肌に整った目鼻立ち、優しげな雰囲気。

上質な浴衣を見るまでもなく、育ちが良いことを体現している。

「貴方の方こそ、」

汚れてしまってはいけないでしょう。 

そう言おうとしたが彼は素早い動作で金魚を捕まえた。
そのままおじさんのいる屋台へ向かう。

「でもそれ、鰓に泥が入ってて」

どうせ死んでしまうのに。

「早々に諦めるのは良くない。ね、おじさん」

「あいよ!鰓なんざ洗えば大丈夫だ!」

「なかなか荒っぽいな…」

彼が苦笑いしながら戻ってくる。

「兄ちゃんそこのべっぴんさんの旦那か?よう似合うとるわぁ」

おじさんの声が追いかけてきた。



< 1 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop