鈴木くんと彼女の不思議な関係

 神井は険しい顔でほぼ一方的に話していて、多恵は俯いたまま、ただ相づちをうち、時折、手元のスケッチブックに落書きをしていた。
 やがて疲れた神井が話をやめる。長い沈黙があったが、2人に気まずい雰囲気はなかった。
 しばらくすると、今度は多恵が絵を描きながら話し始める。神井は多恵の手元を見ながら真剣に話を聞いている。話が終わるとスケッチブックから多恵の描いた絵が切り離され、神井に手渡された。
 神井の顔が安心したように緩む。彼がみるみる自信を取り戻して行くのが見ていて分かった。

 ああ、これは、やられちゃってるな。
 あれだけのハードな局面の中、自分の悩みを聞き、自信を取り戻させてくれる女の子がいたら、好きにならない方が難しい。鈴木に強力なライバルが現れたのだと知った。

 鈴木は可哀想だけど、多分、神井か川村だな。漠然と思った。昨年の間は鈴木に遠慮していた川村だが、神井にみすみす盗られたりはしないはずだ。実際のところ、小学生並みに能天気で不器用な鈴木の代わりに多恵の面倒を見ていたのは、川村なのだから。だが、神井の熱量も尋常ではない。多恵自身はまだ何も始まっていない。でもこの1年で状況はきっと変わる。

 私は焦る必要はない。多恵が誰と付き合おうと、私と多恵の仲は、彼等とは別の次元にあるからだ。私も鈴木と同様に、今はこのまま受験勉強に邁進するのが賢い選択と言うものだ。


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