鈴木くんと彼女の不思議な関係

「ロミオ。あぁ、ロミオ。貴方はどうしてロミオなの?」

 本心では、『あぁ、どうして俺はジュリエットなの?』と言いたいところだが、照れて演技に入りきれない役者が、どれほど見苦しいものか、演劇部だった俺は知っている。やるからには本気でやらなきゃ、余計格好が悪い。

 今回は女優になりきるというよりは、よりオネェっぽく。俺達が笑われ役で存在感を示せなければ舞台全体がダメになると、布施には毎回のように言われる。

 俺の憂鬱を他所に、演出になったクラスメイトと清水と布施の3人を中心に、舞台は面白おかしく出来上がっていく。俺は演劇部で発声練習はしていたものの、入部したての頃に一度だけ役者をやったきりで、こんな大役は経験が無い。言われた通りの演技をするだけで精一杯だ。いつもは傍から見て勝手な感想を言ってたけど、舞台の中央で自分が動いていると、周囲の演技は意外と見えない。自分の演技が良かったのか悪かったのかも、自分ではよく分からない。役者も演出も、思った以上に大変だったのだと初めて知った。

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