薄桜鬼 二次小説 *土千*
嫌いにならないで 【屯所時代】千鶴視点
※両想い
※沖田さんがあて馬………






「千鶴ちゃん、これからあんみつ食べに行かない?」


沖田さんが廊下の向こう側から、布で髪を拭きながら歩いてくる。

洗ったばかりだからか、近藤さんとお揃いの結び目は解かれ、綺麗な髪は下ろした状態だ。


沖田さんたら……また、



「風邪ひいちゃいますって何度言ったら……あーもう、あんみつよりお体をちゃんと大事にしてください」


自分より遥かに身長が高い沖田さんの髪を、精一杯背伸びして拭く。


「千鶴ちゃんは小さいね」


「え、」


「はい、拭いて?」


「……」


私の身長に合わせて体勢を低くする沖田さん。



手を伸ばし、まだ濡れている沖田さんの髪を拭こうとしたところで、


「千鶴、」


と、後ろから低く鋭い声が聞こえた。



「あーあ、土方さん邪魔しないでよ。せっかく千鶴ちゃんにお世話してもらってたのに」


「…千鶴、ちょっとこっちに来い」



「えっ、あの、土方さん」



沖田さんの言葉を聞かず、土方さんは足早に廊下を歩いていく。



立ち惚けていれば、すぐさま大きな掌が私の手首を掴んだ。



「来い」


「……っ…」


射抜くような、有無を言わさない菫色の瞳。


初めて会った時もこんな瞳をしていた気がする。



手首を掴まれたまま、私は土方さんの後を必死で追った。
そうしなければこのまま引きずられてしまうのではないかと思うほどの力だった。



土方さんのお部屋に着くと、私はあっという間に畳の上に体を放り出された。



「きゃ……」


畳に両手をつき、顔を上げた瞬間、

顎を掌で持ち上げられる。



「千鶴」



「……土方さん……どうかしましたか…?」


「……」


「…土方さん…?」


真正面から見た土方さんは、相変わらず綺麗だ。

男の人に綺麗なんて言葉はおかしいかもしれないけど、
綺麗という言葉以外に表せない。


その表情が次第に悲しいものへ変わっていくのを、私はただ見ていることしかできない。



「千鶴……」


顎から頬へ、土方さんの掌が私に触れる。


「…どうしてそんな表情―――――――」



口開きかけた時、

柔らかい感触が唇に伝わり、すぐに離れた。



一瞬のことで、目を見開く。



「…お前に惚れてんだ、俺は…」


「……え」


「お前が他の奴らに触られているのを見ると…どうにかなっちまいそうになる」


「……」


「……ったく、新選組の副長たるもんが愛だの恋だのって情けねえな…」


土方さんは、私の頬にもう一度触れると、机の方を向いてしまった。



「あの、土方さん…」


「…総司が好きなのか?」


「えっ」


予想もしない問いに、素っ頓狂な声を出してしまう。



「…違うのか」


「…沖田さんのことは好きです。でも……」


「ああ、悪かった。立ち入ったことを聞いたな……もう自分の部屋に戻っていい」



どうして………




さっきまで私を見ていた瞳は机の上の書物に向いている。


やだ……


土方さん……

突き放すような言い方しないで……



畳の上に手をついたまま、片方の手で土方さんの袖を掴む。



「……千鶴…?」


こっちを向くのを見計らい、私はありったけの思いをその口づけに込めた。



「……」


「千鶴……」


「どうして、お前に惚れてるとか、他の男の人といるとどうにかなりそうとか言っておいて……」


「……」



土方さんのほうに身を乗り出し、必死に口を動かす。


言いたい放題言っているのは私のほうだ。


土方さんも、きっと呆れてる……




「…私の気持ちを聞きもしないで、どうして、」


涙が溢れ出る。

泣きたくないのに、土方さんを困らせたくないのに……



止まらない。もうこれ以上喋って、嫌な女になりたくないのに…



「千鶴、落ち着け」


土方さんは私の肩を引き寄せると、頭をぽんぽんと撫でた。
まるで子供をあやす様に、優しく。




「私……土方さんが好きです……土方さんは、もう嫌いですか?私のこと嫌い――――?」


腕の中から、土方さんを見上げる。



「馬鹿か。嫌いになるわけねえだろうが」


柔らかく、暖かい口づけ。


それは今までの2回よりも長く、胸がいっぱいになってしまうほど幸せなものだった。




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