甘い香りに誘われて【続編 Ⅲ 完結しました】
久しぶりに葵さんを見かけたのは、会社ではなく、京都だった。

三月の連休中、実家に帰った私は、同じく実家に帰省中の大樹、翔太、私の三人で京都御苑を歩いていた。

今年は、桜が例年より早く、日当たりの良い場所にある桜は、チラホラ咲き始めていた。

「茶室…見ていい?」

大学四年の翔太は、見た目はチャラいが、歴史好きで、古いものが大好きだ。

はい、はい…と大樹と一緒に付き合う

翔太は、茶室"拾翠亭"へさっさと入って行ってしまった。

私と大樹は、さほど興味はないので、ノロノロと茶室へ向かう。

一組の男女が出てきたので、道を譲る

ドキッ

(えっ…葵さん⁉︎)

男性は、葵さんだ。艶やかな西陣織りの豪華な着物の女性を連れてる。
歳は、たぶん私と変わらないか…少し上?

私と目が合う少し前、着物の女性に優しい眼差しを向けていた。

ふわり…

…アナ○イのバニラの香り。

葵さんは、一瞬だけ私を見て、すっと何事もなかったように前を向いて行ってしまった。

グラッ…視界が揺らいだ。

「都!」

力が抜け、転びそうになったところを大樹が支えてくれた。

崩れていく視界の隅で、葵さんが振り返ったような気がした。















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