Engage Blues
わかっていても、感情がついていかない。
「でも、だからって……ッ」
《梨花》
まとまらない混乱の中、コウがたしなめるように名前を呼ぶ。
《こうなることはわかってたでしょ》
穏やかな声音なのに、ぐっと押し黙る。
黙らされた。
《あんた、本当にどうしたいです? 何をしたいんです?
恋人に事実を打ち明けられない。家を継ぐのは嫌だ。若林さんと結婚したい。所有する奥義書を全部、渡してやればいい。そんな全部あんたに都合よすぎな、最高の道なんてあるんですか?》
容赦ないコウの言葉が、ぐさぐさと突き刺さる。
わかってたことだ。
今、こうなったのは全て自分のせい。
あれが嫌だ、これが嫌だと文句ばかり。
選択肢の中から失われるであろう結果を恐れていただけ。
都合のいい未来を夢見てるだけ。
先延ばしにしてきた瞬間が近付いてる。
自分じゃない、他者の力によって。
《虎賀家が接触してきたのは序の口です。いずれは、他の家も凰上家の奥義書を狙ってくる。そうしたら、他の連中だって若林さんに目をつけるでしょう》