Engage Blues





「それより、鼻高々だ」


 落ちてくる囁き。
 意味がわからず、見上げると柔らかな笑顔の慶さんと目が合った。



「遠くからでもわかった」



 再び、優しく囁かれて何も言えなくなる。

 暗にめかし込んだ服とメイクを誉めたんだと思う。
 頑張った甲斐があったと嬉しくなる反面、大げさ過ぎる気もした。

 先に会ったコウは何も言わなかったし、誰からも声はかけられてない。

 十人並みのオシャレだと視線で訴えるけど、慶さんの表情は変わらない。
 つまり、喜んでるってこと。


「ど、どうも……」


 裏返りぎみな声でお礼を言うと、慶さんはますます嬉しそうに笑う。
 同時に流れるような動きで手を取られ、優しく引かれる。


 ……道行く通行人の誰もが目を奪われる、王子様のごときエスコートだ。
 人間、嬉しすぎると恥ずかしくなるらしい。
 心臓も、今にも胸を突き破りそうだ。



 慶さんッ!
 あなた、これ以上、わたしをどうしようってんですかッ。










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