私は、アナタ…になりたいです…。
お別れしましょう…
店を出て、一目散に彼女の後を追いかけた。
河佐咲知は路地を抜け、駅方面へ向かって早歩きしていたーー。





「河佐さん!待って…!」


追いかけてきた田所さんの顔をまともに見れなかった。
水路のある路地を抜けて、駅に向かって早歩きしているところへ彼は来た。



(来なくても良かったのに…)


口にできない言葉を呑み込んだ。
少しだけ息を切らした彼は、無言で私の顔を見続けていた。



「送るよ…帰ろう…」


先に歩き出した人の背中を見つめ、「一人で帰れます」と断った。


振り向いた人が笑ってない。
彼にこんな顔をさせるのも、きっと私だけだ…と思った。



「田所さん…」



この最近、ずっと考えていたことを思い返した。
彼にどんな顔でいて欲しいか、ずっと考えがまとまらなくて困っていた。


…でも、今の顔を見て気づいた。


彼には、やはり笑顔でいて欲しい。

皆の憧れでもあるスマイルをずっと見せていて欲しい。


その顔に魅せられた。

辛そうな時の彼の顔も好きだけど、やはり笑顔のままがいい。

例え、その顔の裏に悲しみがあったにしても、この人は上手くそれを隠せるから……。



(ーーーだから、自分も笑顔で言うんだ)


数歩歩み寄って、彼の隣に立った。

見上げる様な背の彼に向かって、笑みを作る。

この最近言おうにも言えなかった言葉を言おうと息を吸った。

ゆっくりと吐き出しながら声を前に押し出した。




「田所さん…別れましょう」



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