私は、アナタ…になりたいです…。
『いい?』と聞く彼に、「嫌です」とは言えなかった。

「はい。また是非…」と答える以外に、適当な言葉は見つからなかった。


心臓の音は、相手に聞こえるんじゃないかと思うくらいにまで跳ね上がっていた。
田所さんは安心した様に声のトーンを落とし、私の耳に向かってこう囁いた。



『おやすみ。また明日』


丸っぽい声の主は、息を吐きながら通話を切った。
切られた後もスマホを耳に当てたまま、私は身動き一つせず黙り込んでいた。




(憧れの人と付き合う…?この私が……?)


思考は完全にストップしていた。
それから暫くして、母親から「お風呂はどうするの?」と聞かれるまでぼんやりしていた。


お風呂に入っても上がってからも、全てが夢みたいな感覚だった。

夢なら醒めないで…と思う気持ちと、夢なら醒めて欲しい…と思う気持ちの二つが、心の中でぶつかり合った夜だった。


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