気になるパラドクス
そう思って参加したはずなのに、さっきから黙ってビールを飲みながら、じ~っと人の顔を眺めている男性がいる。

顔見知りだからと話しかける私の後輩をガン無視で空気は微妙になるし、諦めた彼女が他に行くと、そのうち取り残されて私の隣に座ってくるし、そして何をするでもなく淡々と飲んでいるし。

いつもよりちょっと乱雑な髪に、どこかで見たような黒のパーカー姿で、そしていつもと違って、とっても不機嫌そうだけど。

どうしてクマさんがここにいるんだ。

とりあえず、視線を合わせないように背を向けて、ずっと別の人と話し続けてるんだけど……。

この状況で酔えるか!

いい加減、腹が立ってきて、黒埼さんを振り返った。

「何なんですか、あなたは!」

「そっちこそ。これって合コンって言うんじゃねえの?」

「私は飲みに誘われただけです! それで私はどうしてあなたに、そんな不服そうにして、しかも、睨まれながら飲まなきゃならないんですか!」

ギリギリ睨み合っていると、さっきまで私が話していた人が、馴れ馴れしく肩に手を置いて黒埼さんを覗き込んだ。

「黒埼、知り合い?」

「まあな。とりあえず触んな」

肩に手を置いていた手が、黒埼さんの指先で払われる。

「あー……黒埼、村居さん狙いなんだー? 乗り気じゃなかったのにガッツリ行くねー」

微かにへらっと笑うその人の表情を見て、黒埼さんが目を細め……。

思わず背筋が凍りつきそうな、冷たい視線に、その人も私も一瞬で固まった。

「とりあえず村居さん」

「は、はい」

「ここ座れ」

ポンポンと空いている席を示され、青ざめながら酔っぱらいの彼を振り返り……。

彼はすでに、にこやかに向こうのグループに紛れて談笑していた。

変わり身はやっ!

「他人に助け求めんな。いい機会だから、ちょっと話つけようじゃないか」

低い声にまた黒埼さんを振り返り、それから眉を寄せた。

とくに“つける”ような話はないと思うんですが。

少し怯える心理が働かないわけじゃなかったけど、平気な顔をしながらビールの入ったグラスを傾ける。

「なんの話ですか?」

言いなりになんてなってやるもんか。
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