気になるパラドクス
「ちょっと真理と話してくるな?」

べ、別に気にせず行けばいい。

階下に向かった彼を見送り、髪を直しながらスタッフルームを出て、美波の隣に立った。

「……美波、聞き耳たててたね?」

「当たり前。密室なんてあんた、襲われても文句言えないじゃない」

「そうね。そうかも……」

まぁ、会社でキスもされたしな。

ぼんやりとしていたら、美波が難しい顔をして私を見上げていた。

「何?」

「美紅はしっかり者だけど、ちょっと抜けてるから心配」

「……う。まぁ、ちょっと、自覚はあるかな……」

背後にいられても気づけないし、言い負かされてる気がするし……。

「黒埼さん……だったかな。前の彼も八方美人過ぎてひいたけど、あの人も一見は人当たりよく軽く見えて、裏がありそうで苦手かも」

美波は呟いて、それから溜め息をついた。

美波は人を見るのが好きだから……。

ちょっと心に止めておこう。

「って言うか、あの男は絶対に軽いな」

階段を堂々と指差す美波に困りながらも笑ってしまった。

「……それは、私も初めから思ってたかも」

そんなことを言いながらも、ソファの運搬オーケーになって、美波は黒いひとり掛けのソファを購入。

それから近くのファストフードで黒埼さんはハンバーガーをペロッと3個も食べて、美波に連れまわされても、文句ひとつ言わずに買い物につきあってくれた。
晩御飯もおごってもらい、なおかつ車で送ってもらうという特典付き。

先に美波の家に買ったソファを納品した黒埼さんが何となくご機嫌で車を走らせている。

「楽しそうですね」

「うん。変則的なデートと思えば楽しめる」

……この人を理解しようと言うのが無理なのかもしれない。









< 47 / 133 >

この作品をシェア

pagetop