気になるパラドクス
ああ、でも……そうかな。
可愛いもの好きをひた隠しにしているから、必要以上にキビキビしていたのかもしれない。

「今の村居主任も好きですよ」

「えっ!?」

「何だか人間味があって」

……私、そこまで人間からかけ離れた態度をしたことはないんだけど。

とりあえず、私は部下に恵まれているらしいという事はわかったかも。

黒埼さんが言っていたのはこういう事かな?

そうだなー……確かに悪意のある噂話が無くならないのは嫌だけど、身近にいる人がわかっていてくれているのなら……何だか救われる。

わかってくれる人だけに、わかってもらえればいい、というわけでも無いけれど、どんなに言葉を尽くしても、わかり合えない人と言うものはいるわけで……自分はつくづく未熟だなと思う。

「そういえば原さん、新しい彼女出来たみたいですよ」

ファイルをめくっている部下を見て、それから書類に視線を落とした。

「それはおめでとう? これで噂の一角が無くなるかな」

「あっちで騒ぎになってくれれば、たち消えになるかもしれませんね」

「実害がなければいいけど」

仕事は仕事、プライベートはプライベートでさ。

でも何だか……いろいろあるんだけど、部下に“好き”とか言われちゃったよ。
もちろん主任として“好き”って意味なんだろうけど。
そんな事を言われたら、嬉しすぎてどうしよう?

バタバタしたい、バタバタ。

でも、仕事中にそんな事をするわけにもいかないし。さすがにそれは頭大丈夫か疑われると思う。

……そういえば、私は黒埼さんに何も言っていないな。

好きって言ったのも、付き合おうって言ったのも、全部黒埼さんからで。
思えば私から何かアクションを起こしたことと言われれば、失言ばかりのような気が。

頬杖をつきながら考えて、溜め息をつくと、両手でパン!と両頬を叩いて部下たちにギョッとされた。

「ど、どうしたんですか、村居主任」

「ちょっと気合い入れ直してた」

「はぁ……ほどほどになさってくださいね?」

ほどほどにはしないけど、気合いは入ったかな。

今日は残業しないで帰るぞ!
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