空蝉
いつから我が家がこんな風だったのかは、思い出せない。



父も母もケイには優しく、だからどちらも好きだ。

が、父と母は不仲。


何があってそうなったのかはわからないが、でもケイが察するに、お互いに忙しすぎることが原因だと思う。


父も母も仕事が好きで、だから家で家族が揃うことは滅多になく、家族が揃ったところで会話らしい会話もない。

家族で出掛けるなどということは、夢のまた夢なのだ。



それでも離婚なんてしないでほしいと、いつもケイは願っている。



両親の気持ちはわからないけれど。

悠生の気持ちも、アユの気持ちも、あの時の真理の気持ちだって、ケイには何もわからないけれど。


ただ、ケイは不安を顔に出さないようにするだけで精一杯で。



「お母さん。今日の晩ご飯、何? 私、着替えてきて手伝うよ」

「ありがとう。今晩はシチューにしようと思って」


父は無言でリビングを出て行った。

父は母の方を見ないし、母も父の方を見ない。


結婚って、愛し合ってするものじゃないの?


喉元まで出掛かった言葉をどうにか飲み込み、ケイは「私、シチュー大好き」と笑って見せた。

いくらケイが取り繕ったところで、夫婦の関係が修復されるわけもなく、だから余計、努力が虚しく思える時がある。




恋愛も、

友情も、

親子関係も。




私はこんなに頑張っているのに、なのに何がダメなのだろうかと、時々、ケイは泣きたくなるのだ。

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