空蝉


家には帰れない。

とにかくどこか遠くに行かなければ。


そんな思いで、アユはふらふらしながらも、歩き続けた。




しかし、無意識に辿り着いたのは、繁華街だった。




私はここ以外に知らないのかと、自嘲する。


平日のこんな時間だからなのか、ほとんど人はいなかった。

いるのは、見るからに怪しい人たちだけ。



でも、怪しい人たちですら、頬を腫らした涙の痕の残る変な女には近付いて来ない。



その時、空から唸るような雷の音が聞こえてきた。

そういえば、天気予報で、夜半から雨が降るとか言ってた気がする。


ほんと、最悪。


痛みと疲労でもう動けない。

アユはうづくまるようにその場にしゃがみ込んだ。




もういい。

どうなってもいい。


どうせ私の人生なんて、遅かれ早かれ康介に殺されて終わる運命なんだ。




ぽつり、ぽつり、と、雨粒が地面を染め始める。

涙なのか雨なのかわからないものが、張られた頬に帯びた熱を奪っていく。


このまま濡れていたら、私は冷たく消えることができるだろうかと、願いにも似た気持ちを抱いて顔を上げた時、



「何やってんだよ、お前は」
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