空蝉
もちろん、誰にもそんなことは言えないし、翔に言おうものなら絶縁されてしまう。

だからヨシキは、ただひたすらに、真理への感情を内に押し殺した。



そんな悩みを人知れず抱えていたある日のことだった。



翔と一緒にゲームをするためにテレビをつけた。

ちょうどニュース番組がやっていた。


小学生の女の子にわいせつなことをした男が捕まった、という話だった。



「うげっ、気持ち悪ぅ」


翔はいきなり顔を歪めた。

そして、見たくはないとばかりに早々にチャンネルをゲームのところに替え、



「変態オヤジとか考えらんねぇ。同じ男だと思いたくねぇし。ああいう大人がいるから、真理を安心して遊ばせらんねぇんだよ。なぁ?」


話を振られたヨシキは、「あ」とか「う」とかしか返せなかった。

『変態オヤジ』と同じ俺。


しかし、翔は息巻く。



「真理に変なことするやつ殺すし。っていうか、ヨシキも真理のことあんま甘やかすなよ。俺が厳しく言ってる意味ねぇだろ」


父親がいないからこそ、翔は幼いなりに一家の大黒柱のつもりでいたのだろうし、そういう使命感があったからこその台詞だったのだろうけど。

ヨシキは心ここにあらずのまま、「わかってるよ」とだけ返した。




真理を避けるようになったは、その頃からだ。




これはいけないことなんだと思いながらも、ヨシキは相変わらず頭の中で真理を汚しているからこそ、後ろめたさでちゃんと笑ってあげられなかった。

何より、真理にこんな自分を知られたくなくて、だから避けていたかったのだ。


翔にもあまり甘やかすなと言われたから、ちょうどいいと、ヨシキは必死で自分に言い聞かせた。



カイジと仲よくなったのもそんな頃だったので、何も考えたくなかったヨシキは、常に外で3人で遊ぶようになり、酒や煙草も覚えた。
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