空蝉
『真理』



翔が夢うつつの中で思い出すほどの人。



何だかんだ言っても、あんた結局、私を助けたことすら暇潰しでしかないんじゃない。

なのに、助けられたことに恩を感じ、少しでも翔を見直していた自分に辟易する。


何が『誰のことも好きじゃない』よ。




嘘つき。

嘘つき、嘘つき、嘘つき。


やっぱり男なんて、ろくなもんじゃない。




何が悲しいのか、わからない。

ただ翔は私を助けてくれただけで、それは恋愛云々ではない。


そう、頭ではわかっているはずなのに、なのに心が痛くなる。



「ねぇ、『真理』って誰なのよ」


声を震わせながら問うてみても、寝息を立てている翔からの返事はない。



今度こそ寝入った翔を確認し、アユはベッドから抜け出した。


リビングに戻り、散らかった缶を適当に片付けて、そのまま翔の部屋を出る。

いつの間にか雨は止んでいた。





もう、二度と翔には関わらない。

男なんて大嫌い。


わけのわからない胸の痛みには気付かないフリをして、アユは、明けゆく鈍色の空を見上げ、唇を噛み締めた。

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