空蝉
「お前、何? アユとどういう関係?」

「と、友達です」

「そうか。じゃあ、後ろのやつちょっと貸せや。『友達』なら、いいよな?」

「どうぞ、ご自由に」


言うや否や、悠生はアユを前に押し出した。



「ちょっ、悠生! 馬鹿! 裏切り者!」


なのに、悠生はにやついている。

おもしろい場面に遭遇したとでも言いたげな顔で、



「しっかし、ずっとカレシいないとか言ってたアユがねぇ」


にやにやにやにや。

悠生の口元は緩みっぱなしだ。



「心配しなくてもケイには黙っててやるよ。な? 俺は頭も口も固いんだ」


嫌味か。



「ふざけんな、悠生! あんた絶対許さないんだからね! 覚えときなさいよ!」


しかし、咆哮してみても無駄だったらしい。

相変わらずにやにやしている悠生に「いい夏休みをー」などと言われて手を振られ、涙目になったアユを、翔はかまわず引きずっていく。


抵抗虚しく、アユは翔によって、駅のロータリーに停めていた、この前と同じ黒いセダンに押し込められた。



それでもどうにか暴れていたら、



「逃げようとしたら、今すぐこの場で犯すからな」


恐ろしい顔で、翔は犯罪予告をしやがる始末。


アユはついに、どうすることもできなくなった。

諦めたアユを確認した翔は、車を発進させる。



「何で私がいるってわかったの?」

「俺の情報網を甘く見るな」
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