十八歳の花嫁
第1章 仕組まれた恋

第1話 獲物

第1章 仕組まれた恋





第1話 獲物





「彼女が西園寺愛実(さいおんじいつみ)か?」

「はい。間違いありません」


美馬藤臣(みまふじおみ)の問いに第一秘書の瀬崎幸次郎(せざきこうじろう)が答えた。
瀬崎は真面目を絵に描いたような男だ。わざわざ調査報告書を捲りながら確認をとる。


「それで、あれはどう見ても不特定の男を待っている風情だが……。旧伯爵家のご令嬢は、身体まで売ってるのか?」


それはそれで利用価値は高そうだ。目的のためなら贅沢は言えないだろう。だが……どうにも面白くない。
美馬は大きなため息をついた。


「いえ……報告書にそういったことは書かれてありません。アルバイト先は宅配会社で早朝に仕分け作業を。他には、平日の夜と週末にファミリーレストランの厨房で皿洗いをしているようです。ただ……」


何枚目かに目を通しながら、瀬崎は言いよどんだ。


「ただ、なんだ?」

「はい。先週から闇金の取立てにあっているようです」


それはかなり執拗な取立てで、担保は遺族年金――本来担保には取れないものだった。
だが実際は、十八歳の愛実の他に十三歳の妹もいる。相手が闇金であるなら、娘たちが担保代わりなのは明白だろう。
しかも、その借金をしたのは母親だと言う。


「母親は典型的な逃避型の浪費家です。貯金と借金の区別がつかない女性ですね。今回はそこに付け込まれて、何も考えずに借りたようです」

「生活費か?」

「いえ……学生時代の旧友が主催したパーティに出席し、借入れのほぼ全額を寄付しています」


美馬は目を閉じ、頭を左右に振った。

< 1 / 380 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop