十八歳の花嫁

第9話 愛人

第9話 愛人





「ねえ……お願い、キスして……」


由佳はいつもセックスの最中にキスをねだる。

彼女の癖なのだろう。
だが、藤臣は一度も応じたことはなかった。強引に奪われた十代半ばのころはともかく、自ら唇を重ねたことなど一度もない。
彼には由佳を……女を喜ばせるつもりなど全くないのだ。
挿入に必要な潤いがあればそれでいい。後は自分のために動いて、溜まったものを吐き出せばおしまいだ。


(二日連続で女を抱くなんて、いったい何年ぶりだ?)


愛実の傍にいるだけで、どうしようもなく身体が高ぶる。藤臣は、深夜に彼女の寝室をノックしそうな自分が怖かった。

欲望は手近な女でさっさと解消するに限る。

声を上げ、顔を歪ませる女を冷ややかに見下ろしつつ……。
くだらない征服感が彼の空虚さを満たしてくれた。
――これまでは。


由佳の顔がふとした拍子で愛実に変わる。

その瞬間、冷水を浴びせられたように、女の中に押し込んだものが萎えそうになるのだ。

藤臣は由佳をうつ伏せにして、背後から抽送を繰り返すが……。


「あ……せ、専務? あの……」


唐突に由佳から身体を引き離した。

彼女は不思議そうな声を出す。それもそのはず、これまで一度も藤臣が満足する前に、女を解放したことなどないのだから。


「どうなさったんですか? 私、なんでもおっしゃるとおりにいたしますから」


愛情と約束さえ求めなければ、標準以上に気前のいい男である。
由佳にすれば、機嫌を損ねて秘書室での立場に響くことが心配なのだろう。


「いや……今日はもういい。一休みして、本社の仕事に戻ってくれ」


目的を達することなく、使用済みの避妊具をゴミ箱に投げ捨てる。

由佳の背後に回ったのが失敗だった。彼女の茶色に染めたセミロングのボブが、愛実の黒髪に顔を埋める妄想を打ち砕いたのだ。

実を言えば、昨夜も今日と大差ない。
無駄に時間をかけただけで、結局最後までは……。


(何なんだ! 俺の身体はどうなったんだ!)


藤臣は欲求不満を解消することなく、バスルームに戻る羽目になったのである。

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