十八歳の花嫁

第5話 陥穽

第5話 陥穽





「社長、遅くなりました」


たった今、到着した様子で藤臣の秘書、瀬崎がやって来た。

ブラックスーツでシルバーグレーのベストを着た藤臣とは違い、瀬崎は通常のスーツ姿だ。
いかにも仕事帰りといった風情である。


「契約書の件で、長倉先生が大奥様のお部屋でお待ちだそうです」

「わかった」


藤臣はうなずくと、


「愛実、申し訳ないが、しばらくここで待っていてもらえるかな? 二十分もかからないと思う。ああ、絶対にパーティ会場からは出ないように。この瀬崎を残していくから」


愛実が「はい」と短く返事をすると、彼はそのままパーティフロアから出て行った。


「この度はご婚約おめでとうございます」


瀬崎は愛実を見るとゆっくりと頭を下げた。


「ありがとうございます。あの、弟たちがお世話になって……本当にありがとうございました」


愛実は立ち上がると、両手おまえで揃えて深くお辞儀をした。
弟妹の転校手続きなど、すべてこの瀬崎がしてくれたのだ。藤臣の指示とはいえ、どれほど感謝しても足りないくらいである。


「いいえ、社長のご命令ですから。先日は……大事に至らず何よりでした。私の不注意でとんでもないことになってしまい、非常に反省しております」


そう言うと、瀬崎は申し訳なさそうにうつむくのだった。

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